オヤジが珍しく夜遅くにNHKの番組にくぎずけになっていたことがあった。どんな番組だったかな。確か、なんかハーブとか料理とかの番組だった気がする。思い出せないままある日、ベニシアさんという方がなくなったニュースを見た。「この人だ」一目で気が付いた。確かこの人の番組だったはずだ。オヤジがはまる理由は何となくだがわかっていたはずだった。きっとこの人と同じように穏やかな生に焦がれていたのではないだろうか…ベニシアさんが逝去された同年、オヤジは20年間一緒に暮らした仙台から離れて故郷に戻った。それは図らずも彼が求めていたものを実現するための理由になれた訳だ。
正直に言ってどうして彼女の庭がそこまで人々を魅了するのかはよく分からない。なんだか虫が多そうだし雑草みたいなのがうんざりするほど生えているわけじゃないか。これを管理してどこにどう肥料をとかこの季節になったらこの種を植えてとかやるわけじゃないですか?まぁやれないよね。
でもなんかこの庭汚くないんだよね。華がある。直感的に心地よさを感じることが出来る。そしてベニシアさんの人のよさそうな雰囲気が可愛い。なんでもベニシアさんは貴族のご出身だそうだ。 しかしその生き方に疑問を持ってインドへ旅立ちそして日本へと腰を下ろしたわけだ。
NHKもすごいよな。ガーデニング番組でこの方を起用しようなんて考えるかな。
ベニシアさんが京都の大原に居を構えた当初荒地だった民家も当時の旦那さんや2歳になる息子さんと協力して今ある形の庭を作り上げたそうだ。一つ一つ、鉄くずゴミだらけの中から使えるレンガ、家具を掘り起こし、素敵な庭が完成した。
そんな素敵な庭と家族との時間も限りある。旦那の浮気やご自身の難病の発症。ベニシアさんの最期はこの大原の地だったそうなのがせめてもの救いだろうか。 今やあの庭は荒れ果ているのだろうか。それとも娘さんか息子さんが丁寧に管理しているのだろうか?
ベニシアさんは時の移ろいが本当に楽しみだったんじゃないかな。そんな感想を本書を通して感じる。彼女自身65歳の時に目の不調を訴えていた。それでも庭の世話を欠かさない。毎日生まれては死んでいく子供たちに彼女は何を思うのか。ガーデニングが趣味の方には痛いほどわかるものなのかもしれない。
猫のしっぽ、カエルの手
この美しい緑の世界で私たちが過ごす時間はほんのわずか。 人生は永遠ではないのです。
身の回りで成長していく命あるものの姿が目に入るように、 私は1日1日、ペースを落として暮らすようにしています。
楓の木々が、大原の里に吹き付ける強風から庭を守ってくれます。 その細く、しなやかな枝は、私にしとやかで素直であるよう気づかせてくれます。
大原の田舎道や生垣に沿って、1年中生えているネコジャラシ。 見落としてしまいそうな、その長くてふさふさした姿は、 慎ましやかであるように教えてくれます。
安らかな心は、すべてのものに美しさを見出します。
ベニシアさんは天国でも大好きだった自然と暮らしているだろうか。
今はただその魂が永久の安寧という木の下にある事を願ってならない。
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