マイク・タイソン「真相」を読んで

ボクシングヘビー級史上最年少チャンプ記録、ホリフィールドとの一戦、ピーカブースタイルに数々の場外での争いと快楽…バックドロップにおける永久のPFP1位マイク・タイソンの壮絶なんて言葉では表しきれない、快楽的破滅と再生へと向かっていこうとする一人の男の自伝を読んで。

一体彼は何を成し遂げたのか?

1WBC世界ヘビー級王者を20歳5ヶ月で戴冠

…その後数々の訴訟問題や敗戦を伴うがまた王者に返り咲くが…

正直に言うと彼のパフォーマンスには文句のつけようがないのは事実である。アマ時代、プロ当初の破竹の勢いで連勝を重ねていく余りある攻撃的スタイルは当時を知る人にとっては目覚ましいものだったに違いない。しかし奪取したベルトはすぐに手元を離れているし、何よりキャリア後半の頭を振らなくなったマイクに嫌気をさす方もいたのではないだろうか?

映像を見れば彼の試合前の凶悪的なオーラやその試合内容に圧倒されるのであるが悲しいかな、それは長く続かない夏の花火と同じだったのである。

カス・ダマト=悪 なのではという思い

カス、マイク・タイソンをアイアンマイクたらしめた男。史上最高のボクサーを作り上げた名トレーナー、タイソンの父親代わり…そんな認識は間違ってはいないと思う。実際この自伝でもそうマイクは認めているし、カスがいなくなってからの明らかな落伍はそう認識せざる負えない。

彼は…彼はテレビに向かって獣のように吼えることもあった。世間の人は、カスが獰猛な爺さんなんて思いもしなかっただろうが、実はそうじゃない。自分の思い通りにならない奴を心底嫌った。いつも挑発的だった。1日の大半を歩き回ってぶつぶつ言いながら「ちきしょう、あの野郎。ああ、だれが信用するか。あいつだ、あいつ、あれもこれも気に食わない。ちきしょうめ」

ずっとそんな調子だった。見かねたカミールはよく彼を落ち着かせようとしてたっけな                    *カミールとはカス・ダマトの内縁の妻、マイクやカスの練習生は彼女の家に住み込んで練習をしていた。

カスが逝去されてからマイクは荒れたといわれるが、マイクが目指すボクサー像はカスが目指させたボクサー像であるということを知っている人は余りにも少ないと思う。邪知暴虐の王としてのボクサー。リング上でのキリングマシーンとしてのボクサー。そのすべてはカスがマイクに求めたものである。    マイクは彼がいなくなってからのキャリアのうちに何度も心の中でカスに問いかけたという。

「カス、僕はこの後どうすればいい」 「カス、ベルトを取ってきたよ、次はどうすればいい」

カス・ダマトは勿論リング外での乱痴気を許すような男ではないということは断っておくが、彼はマイクに対し如何に早く相手をキャンパスにたたきつけるか、如何に相手に怖がられるか、如何に自らの恐怖に打ち克つかを教えたが、それがリング外に影響を及ぼすとは考えなかったのだろうか。       マイク・タイソンの心の中に息づく師はこう言った

「マイク、奴を殺せ」

英雄の幻想

この自叙伝は余りにも長い。まぁ伝説のボクサーだし…内容の7割がた訴訟問題だったということは言うまでもないだろうか。後半読むにつれて悲しくなるようような内容なはずなのにどうしても納得がいった。「どうしてマイク・タイソンがこんな目に合わなければならないのか」なんてことは思わなかった。僕のなかの英雄は結局は薬にも女にもか弱い男だったんだ。何度も牢屋にぶち込まれ、トレーニングもせずにパーティー三昧。それでもなお社会復帰を目指す。何度も何度も薬物にまける。でも彼は過去の栄光に浸ろうとはしなかった。

一人の小さな男、でも彼は暗い社会の底から何度も日の光を求めて抗い続けた。                            その姿こそ僕のなかのでより一層輝く英雄として焼き付いた。                        

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